いつかは、こういう日が来ると思っちゃぁいたが。
鳥羽伏見の戦いで破れ、逃げるように大阪を脱出し、江戸に戻ってから…




もう、あの頃には戻れねぇ。
新選組として、京の町を駆け回っていたあの頃には………
















流山で滞在していた俺達は、新選組の残党ではないかと疑われ、
新政府軍の取調べを受けることになった。
一応俺は大久保大和と名乗ってはいるが、
薩摩の連中はそうは思っていねぇみてぇだな。




「トシ…俺達ももうここまでかもしれねぇな。」
「何言ってんだ近藤さん。」
「ここで捕まって恥を曝すくらいなら、切腹した方がマシってもんだろ。」
「駄目だ!まだ正体がばれたわけじゃない…」




俺が腹を切ろうとするのを、トシは必死に止める。
数人の隊士達も、その様子を息を飲んで見守っている。





そうだよなぁ〜。
俺が今ここで腹を切ったとしても、俺はいいが、
残されたこいつらはどうするんだ?
新政府軍に捕まっちまうのかな…
だったら、俺は新選組の局長として、
こいつらを守ってやらなきゃならねぇよな。



「あんたが死んじまったら、新選組が終わっちまう!」
「わかったよ。じゃあ俺はどうしたらいい?」




トシは必死に俺を生かす道を模索しているようだ。

「とにかく、近藤さんは新政府軍本陣に出頭してくれ。
そこであくまで、甲陽鎮部隊の一隊長”大久保大和”でやり過ごしてくれ。
その間に俺が勝先生に会って、なんとかする。」

「わかった。時間を稼いでおけばいいんだな?」





間もなく江戸城が無血開城される。
新政府、旧幕府双方を刺激しないためにも、
幕閣を動かすのが妥当と考えたんだろう。
俺はトシの考えに賭ける事にした。



「野村、村上はいるか!?」

「はい、土方先生。ここに…!」

「新政府軍まで、近藤さんに同行してくれるか?」

「はい!」



トシは、隊士の野村利三郎と村上三郎を供に付けてくれた。
俺は馬に跨り、流山を後にする。







トシのことを信じないわけじゃぁない。
だか、もし万が一、俺の正体がばれるようなことがあったら……
そう思った瞬間、俺は馬を止めちまった。


「先生?どうかされたのですか?」

「野村、村上……お前達は流山に戻れ。」

「………え?」


俺の一言に、野村と村上の表情が凍りつくのが分かる。
「先生!?」
「何を言ってるんですか!?俺は…っ!」
「俺に付いて来たら、お前とて命の保証はないぜ?」
「元より覚悟の上です!」
次第に野村の声が高くなる。
その声を聞きつけ不審に思った新政府軍の1人が、こちらへやって来た。


「そこで、何を揉めている!?」
「あぁ…すみませんねぇ〜。ちょっと供の者を帰してやりたくて…」
「それは構わんが…」


軍人は野村と村上の二人にチラリと視線を送った。
だが野村は、このくらいのことで、意見を変える男じゃあねぇ〜んだよなぁ。
何処となくトシに似てなくもないかな…



「俺は絶対に帰りません!」



結局、野村は俺の忠告を聞かなかった。
まぁ、これ以上は俺にもどうすることもできねぇし。


「じゃあ村上、せめてお前だけでも。」

「しかし……」


困惑する村上に、軍人が後押しする。
「ここから先は、供は一人でも十分であろう。」
「…………わかりました。先生、どうかご無事で。」
深く頭を下げた村上は、俺の馬の轡を離した。
「村上、内藤を頼むぜ。」
「……はい!」
俺達の姿が見えなくなるまで、村上はずっと
頭を下げたまま、俺達を見送ってくれた。








「なぁ野村…1つ頼まれてくれるか?」


「………?何でしょう?」


「もし生きて帰れたら、トシに伝えてくれねぇか?」



あいつのことだ、俺がいなくなったら、
きっと今以上に無理をするんじゃねぇか?
あいつが俺の生を望んだように、俺もまたトシの生を願っている。
頼むから、死に急ぐような事だけはしないでくれ……








板橋宿についた俺達は、一応鎮部隊の一隊長として遇された。
だが………
その板橋宿で、信じられない人物に出くわしちまった。


新政府軍の中に見慣れた顔が…
御陵衛士として、途中で隊を離れた人物だ。

「加納くん……」
「きょ…局長…」

彼の顔にも驚きの色が隠せなかった。


「ははっ…俺の命運もここまでか…」


この時俺は、その先にある確実な死を覚悟した。



















あれから、何日経ったのか。
野村くんは無事なのか?
きっとトシは、今頃死に物狂いで、
俺を助けるために奔走してるんだろうなぁ。






「おい近藤!外へ出ろ!」






新政府軍の役人に連れられ、石山邸を後にした俺は、
駕籠に乗せられ平尾の一里塚へ向かう。
その先に待っているものは………




きっと、これが俺が局長としてできる最後の仕事だ。
ならば、せめて胸を張っていよう。
己の生きた道が間違いじゃないと、
誠の為に命を賭けて戦ったのだと、
後の世まで誇れるように。




ごめんな、トシ。

俺はもう駄目だ。

これからは、俺に代わってお前が新選組を守ってくれ。




新選組が在る限り、俺はきっと生き続けるから……











孤軍援絶えて俘囚と作る。

顧みて君恩を思えば涙更に流る。

一片の丹衷能く節に殉ず。

雎陽千古これ吾が儔。

他に靡き今日復何かを言わん。

義を取り生を捨つるは吾が尊ぶ所。

快く受けん電光三尺の剣。

只将に一死君恩に報いん。












あとがき

「近藤祭」の集大成といいましょうか、最後の仕上げとして書いたお話です。
恋華の近藤EDとは全然違ったものになっていますが…。
どうも恋華のチャラ男な近藤さんは、新鮮組の局長と
イコールにならず、私の頭の中では完全に区別されております。
このお題での近藤さんは、恋華の見かけでありながら、
性格はあくまで史実を基に作った局長なのです。
これぞ理想の局長!というのを書きたくて書きたくて…。
組や土方さんのことを思う気持ちも深く掘り下げたかったし、
野村のりっちゃんも書きたかったし…(本当の理由はそれか?/爆)
処刑のときには黒の紋付羽織を着ていたといわれているので、
イラストもそれにならってみました。
だって…EDの白装束じゃあ、どう考えても処刑後に役人に着物を
剥ぎ取られた後の格好じゃぁないですか!
そう突っ込まずにいられなくって…(爆)。
山南さんの時と同様、死ぬ時には正装させてあげてよ…と思ったんです。

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